「この場合kが自然数でしょう?そう、オイラーの定理を用いて・・・あら・・・さすがに優秀ですのね。
追試に問題はないとおもいますけれど、せっかくですから応用をできるだけこなしておきましょうか」
「はい。ありがとうございます」
鏡夜さんが推薦で連れてきたのは2−A副委員長の“城之内綾女”さん。
涼やかな目元に歪み知らずのストレートヘアーを持つ優秀ご令嬢。
☆コンプレックス(2)☆
外は雨。
そして、環さんも心の中は雨のようです。
「ちょっと殿。ただでさえ雨続きなのに、よりうっとーしーマネやめてよ」
外を見てジトーっとした雰囲気がながれているのだ。
「仕方ないじゃん。ハルヒが誰も選ばないんだから」
「タマちゃんのクラスの副委員長さんだよねえ〜〜」
「いや・・・それはもういいんだ・・・多少夢見たことは認めるが、
ハルヒの勉強が捗るならもういいんだ・・・しかし」
「しかし?」
「あっ、じゃん。勉強は?」
「帰ってからするつもり。で、環さんはなんでそんなにジトーっとしてるんですか?」
「新たな問題が勃発した・・・大きな声では言えないが・・・うちのクマちゃんが誘拐された!!」
クマの人形の写真を取り出し、いかにも重要事のように話す環さん。
それに対して光・ハニー先輩・馨と続いた。
「誰もさらわないよ、そんな目の座った子」
「旅に出たのかねえ」
「むしろ家出じゃない?」
この時、私は光だけがまともに返していると思った。
「・・・少々お伺いしたいのですけれど・・・ある程度の喧噪の中の方が集中できるという方が
いらっしゃいますわね。ひょっとして皆様は私達に気を遣って賑やかにして下さっているのかしら。
それでしたら残念ですけれど私は静かな方を好みますの。そもそも今の状況は『ある程度』を
超えた騒音のように感じますわね。藤岡さんの勉学を応援したいという割には言動に統一性が
ないのではなくて?私はそういった歪んだ姿勢は嫌いですの。ともかく要するに
静かにして下さらない?」
長いっ!!長すぎる!!
「「殿・・・あの人素潜り名人?どこで息継ぎしてんだ?」」
「海女さんかもしれないねえ!!」
「いや・・・俺も前々からひっかかってはいたのだ。あの単調めいた独特なトーンは
どこかで聞き覚えが・・・・」
「「「「「!!!!」」」」」
≪≪≪≪≪モールス女史!!!≫≫≫≫≫
「あの・・すみません御迷惑では・・・」
「いいえ。お気遣いなく。鳳さんが私に頼み事だなんてあなたを高く評価されての事ですものね。
どなたかの様に後先考えず女性に浮ついた言葉を使う方と違って私は自分の言動に誇りを
持ってますの。ですから引き受けた以上はきちんと。。。」
ん?この人環さんのこと言ってる??
そう思っていると、ちょうどそこに環さんがお茶を運んできた。
そして、それも拒否され、メロンパンを次に持ってきたけれど、それも拒否。
最後にはモールス女史再開。
そして、見事に倒れた環さん。
「すげえ・・・ハルヒの一刀両断もキツイけど、窒息プレイもたいがいだな」
「殿よりしゃべる人初めて見たよ」
「やはり彼女と環が居合わせると空気が悪くなる傾向にあるな。まあ予想通りだ」
「じゃあなんであの人なんです?」
もっともらしい事を私は単刀直入に聞いてみた。
「環の次に成績がいいからな」
「そうなんですか。それなら納得です」
にしても、なんであんなに環さんを嫌っているんだか。。。
やっぱり、真面目な人はふざけている人が嫌いとか?
でも、ほっとけばいいんだし・・・
「あのう・・・環先輩に何か恨みでも・・・」
ハルヒは勇気を出して聞いた。
すると、案外も簡単に教えてくれたのだ。
「・・・例えば雨は空気を綺麗にするといいますし、梅雨は日本の愛すべき風物詩とも言えますわね?」
「は・・・?」
「充分理解していても私は雨が嫌いなの。それと同じでたとえ成績優秀で尊敬すべき理事長のご長男で
女子に人気があり、大多数の人間には魅力的な人物だったとしても
どうしても生理的に受けつけないものってあるとおもいませんこと?」
ようするに大嫌いということでしょうか・・・いや、そうですよね、話からして。
「あの、鏡夜さんは知っているんですか?城之内さんが環さんを嫌いな理由。
とても生理的に受けつけないだけとは思えないんですが・・・
それだけで嫌うような人じゃないと思うんですよ」
「恐らく学力コンプレックスだろうな。遊んでいるような奴に成績を越されたからじゃないか?」
「ああ・・なるほど」
今回は私が出る幕もなさそうだな。
環さん本人がどうにかするしかないと思う。
ただ私が思うに、城之内さんは環さんのことをよく知らないから、嫌ってるんだ。
本当は好きなのだろうけど。。。ううん、好きになりたいのだろうけど、できないでいるんだとおもう。
これから数日間の間で見直してくれるといいなぁ・・・
「さあ、帰るぞ。も勉強しなければならないだろう」
「はぁい。あーイヤだぁ〜!!!」
「オレが教えてやるんだ。ハルヒ負けるなよ」
「それは無理だと・・・」
「いいな?」
「・・・・はい」
恐かった。久しぶりに見た鏡夜さんの恐怖の笑顔。
それから帰って11時まで勉強させられました。
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