−月の寮




「なんであなたがいるの?」


「風紀委員ですから。まぁ気にしないで」





寮の玄関のホールに集まっているナイト・クラスのメンバー。

全員といっても過言ではない。

恐らく、本当に全員なんだろうから。枢だけを抜かして。












本当の姿



〜最古参のヴァンパイア〜
















私がいる位置はホールの端。

そんな中、中心の方から声がした。





「ふうん。貴方たちまで律儀に“お出迎え”に来たのね。よほど元老院のお爺様が恐いのかしら」





早園瑠佳が言う貴方達とは架院暁と藍堂英。通称ワイルド先輩とアイドル先輩。
枢の懐刀と言われる2人だ。
早園瑠佳の言葉に返したのは架院暁の方。





「そりゃあな・・・俺たちの数十倍生きてきた怪物だ。だから全員、授業を休んでここにいるんだろう…?」


「あっさり認めちゃってる・・・」


「オレもコワイよ莉磨。・・・でもさ純血種の玖蘭寮長とどっちがコワイかな・・・」


「そんなのは決まっているだろう」





ヴァンパイア達が交わす言葉は普通じゃないことばかり。
人間世界はなんてノンキなんだろうと私は思ってしまった。
そして、中心にある階段から聞こえた声でみんなが会話を中断させて、そちらを向いた。




「枢!いいよ。わざわざ君が出ることはない。どうせ僕に小言を言いに来るだけだよ」


「一翁にはずいぶんお会いしていないから語愛雑したいだけなんだけど。だめかな」


「だめじゃないけど・・・」


「しゃべっている間に来たわよ」


・・何故ここに?」


「理事長からのご命令」


「そう・・・」






全員がドアに集中する。

そして、そのドアがその視線に応えるかのように震えだした。





−バンッ!





「・・・ほう。これはこれはにぎやかな歓迎痛み入るが・・・
 私は可愛い孫の顔を見に来ただけなのだよ。そのようにかしこまる必要はない」





あれが一翁・・恐怖すらもかんじさせるあの感覚。どこかで・・・





「一翁・・・ご壮健そうでなによりです」


「・・・私が後見人をつとめることを唐突に拒絶なさった・・・あの日以来ですか、枢様・・・」


「甘やかされたくなかったもので・・・」





本当は利用されたくなかったからじゃないの?





「枢・・・ここじゃなんだから・・・」


「そうだね・・・」





一条拓麻の声に賛同する枢。

部屋を変えようとしようとしたが、そこで一翁が声をかける。





「・・・枢様、やはり純血の方は我々とは違う・・・たとえ血にまみれても汚れることのなき・・・
 永遠に甘美な香りを放つ華−−−そのあふれる若さ・・力・・美しさ−−−
 願わくばいつか貴方の“比類なき血”のおこぼれにあずかりたいものです・・・」





枢の左手を取り、そう言葉を放てば、誰もが枢に噛み付くと思う。

その為、とっさに早園瑠佳は枢を庇い、藍堂英は一翁の手を掴んだ。





「すみません枢様・・・でもっ・・・」


「お戯れが過ぎます」


「・・・早園の娘と藍堂の息子か・・・」


「やめろ瑠佳。はなせ」





早園瑠佳を止めたのは架院暁。

そして、藍堂英を止めに入ったのは一条拓麻。





「藍堂」





しかし、手を離したものの藍堂は一翁に言葉を放った。





「純血種に流血を求めるのはヴァンパイアの最大の禁忌と知った上ですか。僕は貴方を恐れは・・・」





明らかにおびえている藍堂英。

ここで枢は藍堂英を叩いた。





「・・・っ」


「・・・しつけを怠っていたようです・・・」


「・・・枢様がおられるから我が孫も安心してこの学園に置いておけるのですよ・・・“我が君”」





気まずそうなナイト・クラス。
そろそろこの緊張感もピークになり始めたと思った私は声を出した。





「とりあえず、もう解散にさせていただけませんか?一翁」


「あなたは?・・・!!これはこれは。あなたが言うのであれば」


「ありがとうございます。ということで、一条拓麻を除く全員は部屋に戻ってください。
 これは風紀委員からのお願いです。もちろん、玖蘭枢もね」





全員私に疑いの目を向けながら部屋に帰っていく。
それはそうだろう。一翁にお願いできる立場ならば。





、君は・・」


「いいの。心配いらないわ、枢。大丈夫だから」


「後で僕の部屋へ・・・」


「わかった」







全員がいなくなり、一条拓麻と一翁そして私のみの3人となった。





「本当は家族水入らずがよかったのでしょうが、私も一翁を理事長室へ
 お連れしなければならないのでいてもいいでしょうか?」


「それは構いませんよ。ところで・・・拓麻」


「はい。お祖父様・・・」


「お前はとても枢様に信頼されているようだな−−−これからもよくお仕えするのだ。
 そしてあの方を・・・見張れ。お前がこの学園にいることを認めているのはそのためだ」


「・・・お祖父様。貴方はわかっていない。僕は友人の不利益になることはしません」


「・・・分かっていないのはお前だ。学園という狭き世界のまやかしの平和の上の友情など・・・」





そういいながらドアが開けられる。





「黒主学園は平和ですよっ」


「優姫ちゃん!?」


「だっ・・・だから今回もたくさん寄付お願いします・・・って理事長が言ってました。
 あの・・・一条先輩のお祖父様・・・ですよね?」


「・・・是非理事長には“平和”だという根拠を聞きたいものだな。・・・先日は現役の
 ヴァンパイアハンターが学園に入り込んだというではないか。あなたは苦しまれたのでは?」





私に視線が注がれる。
優姫と一条拓麻は一体なんのことだか把握してはいない。





「私は大丈夫でした。あの方がいましたし。お気遣いありがとうございます」


「それについても理事長が説明したいそうです」





現れたのは零。





「早くお連れしろと理事長に催促されているもので」


「零・・・もう出てきても大丈夫なの・・・?」




優姫の言葉するに何かあの後もあったのかもしれない。

でも、零の様子からしてそこまで気にする必要もなさそうだ。





「相変わらず図々しい男だ、黒主め・・・まあよい。案内しろ」


「それでは、私も行きます」


「あなたに案内していただけるとは光栄ですな」





零と私で案内しようとすると、優姫が走ってこようとした。





「零!姉!私も行く」


「待って優姫ちゃん」




しかし、それを止めたのは一条拓麻。
私と零は気にせずに一翁を連れて行った。




「零、先に行って理事長に連絡を」


「はっ?」


「いいから。先にいきなさい」


「・・・・わかったよ」















その頃、止めた一条拓麻と優姫は・・・





「枢となにかあった?」


「・・・・・・・いえ・・・。どうして・・・ですか?」


「いや、枢は肝心なことを話してはくれないから・・・ちゃんかと思ったけれど、
 ちゃんには何故か聞けなくてね。というか、僕嫌われているからちゃんに。
 だから優姫ちゃんなら何か知ってるかもって」


「あの・・私は枢センパイが純血種だってことも知らなかったんですよ。
 ホントなにも知らないんです・・・」


「昔はあんなに枢に懐いていたのに?・・・君は僕の知らない枢をしっているよね・・・?」


















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