がいない。

部屋にも、他の奴らのところにも。








☆××先輩のプライベートビーチ(7)☆








一体どこにいったんだ?

まさか迷子じゃないだろうし。




「鳳君・・・どうなさいました?」

「ああ。これは猫澤先輩。をさがしてるんですがね、見当たらないんですよ」




猫澤先輩は、どこから現れたのかいつもの不気味な声で話しかけてきた。

おっと、これは失礼に当たるから口には出してはいわないが。




君なら見ましたよ」

「!!」

「走ってたんですが、なんか泣いてるようでした〜」




泣いていた?

何故??

は滅多に泣かないはず。

何かよっぽど嫌なことがあったのか、つらいことがあったのか?

それとも、いいことか?

でも、どちらにせよ、なら泣く時は俺の元へいつも来ていたはず。

何故こない?




「そうそう・・・鳳君の部屋の方から走ってきましたよ〜」




俺の部屋?

・・・・・

!!まさかっ!




「猫澤先輩、どちらに行ったかわかりませんか?」

「さあ・・・一緒に探しましょうか?」

「いえっ、ありがとうございました」




携帯に掛ければ取らずに留守電に変わった。

てっきり、傍に携帯がないかと思っていたが違うかもしれん。

俺は双子の元へ向かった。




「光、馨いるか?」

「「ん?なに〜?鏡夜先輩」」

「どちらか携帯を貸してくれ」

「鏡夜先輩電源でも切れたの?」

「いや。ちょっとな・・」

「じゃあ、俺のどうぞ」

「すまない馨」




俺は馨にお礼を言うと、すぐにの番号を打った。

馨のことだ、登録してあるんだろうが探すのも面倒。いや、時間がもったいなかった。

耳に無機質な音が続く。




『もしもし?馨、どうしたの?』




微かにかすれ声。

泣いてた証拠だろう。

そして声の後ろには波の音。

外か?




『馨?もしもしー?』

「俺だ」

『!!鏡夜さんっ!!』

「切るな!!」

『・・・・』

「どこにいる?」

『・・・』

「どこにいると聞いている」

『言えません・・・』




の搾り出した声が儚げに聞こえたのは気のせいじゃないかもしれない。

のすすり声が聞こえ始める。

それに連れて俺の心の奥が握られる感覚に陥ってしまう。

痛い・・・そう思うのは久しぶり。




を泣かせているのは俺だ・・・




「言ってくれないのか?」

『・・・すみません・・・今は一人になりたいんです』

「泣いてる彼女を1人にできるほど俺は冷たい奴じゃない」

『彼女?本当に?なら、別れましょう?そしたら1人にしてくれるんですよね!?』




!!



驚いた。

今までの口からその言葉・・・別れる・・・というのが発せられるのは初めてのことで。

そして、驚いたと共に怒りが出てきた。




「いい加減にしろ。どこにいる?言え!」

『嫌です!!私、見ました!鏡夜さん、私のことすきでもないんじゃないですか!?なら別れたほうがいいです!!』

「・・・はぁ・・・もういい」



そう言うと、俺は電話を切った。

双子は驚いているのは当然で、こちらを凝視していた。




「すまなかったな」

「いえ、とケンカ?」

「・・・さぁな・・・」




そのまま俺は別荘を出た。

の声の後ろに聞こえた音。

波の音と車の響いた音。

この2つの音がなるところ。それは猫ヶ岩しかない。

車は普通にじゃなく響いていたからな。




















鏡夜さん、呆れてた。

自分で招いた結果だけど、もう合わせる顔がないよ・・・




「鏡夜さんに嫌われちゃったよぉ・・グスッ」




もう戻ることなんてできない。

私にもプライドがある。

でも、鏡夜さんに嫌われるくらいなら死んだほうがマシかもしれない。

私は高所恐怖症もあり、崖から少し離れたところにうずくまっていたが、立ち上がって崖の近くまで足を進めた。

本当に1歩1歩噛み締めるように歩いた。




「このまま飛び込もうかな・・・そしたら死ねるんだよね・・・」




下を見れば腰が抜けそうになる。

でも、頑張った。

後は1歩踏み出すか、体重を前に移動させれば終わる。




っ!!」




後ろから駆けてくる足音と共に、鏡夜さんの切羽詰った声。

思わず振り返ったら鏡夜さんが走ってきていた。




「なんで・・・」




私の目の前で止まる足。

鏡夜さんは私を愛しいものを見るように目を細めた。




のことぐらい分かってるつもりだ」

「っ!?そうかもしれませんね。私の気持ちで遊んでいたんでしょう?」




自分で歯止めがきかなかった。

今の私にはひどい言葉しかでてこなくて・・・

鏡夜さんの顔が怒りへと一転した。




「さっきからお前は俺にケンカを売っているのか?」

「まさか。鏡夜さんにケンカ売るなんてそんな怖いことしませんよ。
 私はただ、ハルヒが好きなら好きでそう言ってくれればよかったんです」

「何故俺がハルヒを好きになる。俺はずっとだけだ。が見たのは俺の部屋のことだろう?」




わかってるんじゃない。

私がいるの気づいていたってこと?

そうだったら性質悪すぎるよ・・・




「あれは悪かったと思っている。ハルヒに自分が女だと自覚してもらう為の演技だったんだ・・・」

「えん・・ぎ・・?」

「ああ」




演技だなんて・・・

信じるべきなのか。




「でもっ!あの写真はどう説明するんですか?親しくなきゃあんなのもってませんっ!!
 私だって持ってないのに、鏡夜さんが持ってるなんておかしすぎます!!」




写真というのは、ハルヒの中学時代の写真のこと。




「あれはハルヒの父から頂いたのだ」

「なんで!?なんで鏡夜さんとハルヒのお父さんが知り合いなんですかっ!?」

「ハルヒの父とはメル友でな」

「もーワケわかんないです・・・信じていいのか・・・どうか・・・」




鏡夜さんが近づいてくるのが肌でかんじる。

下を向いていた私の目の前に鏡夜さんの足が見えた。




「今はどちらでもいい。だから死のうとするな。俺はがいなくなってしまったら生きていける自信がない。
 ・・・信じてもらいたいというのが本音だ。どうしたら信じてもらえる。いっそのこと証明として俺が飛び込むか?」

「っ!?ダメッ!!」




思わず抱きついてしまった。

鏡夜さんが飛び込むって考えたら自然と体が制止をかけた。

慌てて離れようとすると、逆に鏡夜さんが私を抱きしめた。




「俺は本当にしか愛していない。この気持ちに嘘はない・・・だから信じてくれ」




一層腕の力が強まった。

下から鏡夜さんの顔を覗くと、とても切なそうな顔。

今まで一度もみたことのない顔だった。

こんな一生懸命な鏡夜さん、初めてみた。



私・・・何馬鹿なことしてたんだろう・・・

なんで信じ切れなかったんだろう・・・




「・・・ごめんなさい・・・」





涙がまたあふれ出てきた。

止まらない涙が。











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