「、来てたんだ」
「父さん・・ちょっと、仮眠・・・」
「はいはい。おやすみ」
本当の姿
〜血の錠剤と銃〜
「納得いかない。俺達の役割って芸能人の出待ちの警備でしたっけ理事長!!」
うるさい・・・零の声・・・
「こっちも納得いかない」
「あっ!姉」
「やぁ。おはよう」
「おはよう。父さんに優姫。そして零・・・起こしてくれてあ・り・が・とv」
嫌味を込めて零に挨拶をした。
すると、零はちょっとたじろぐ。
こうも思った通りにコトが進むと面白い。
「いやー大変だよね。毎夕毎夕」
「大変だってわかってんなら風紀委員の頭数そろえてくれ。アイツちっとも役に立たねーし」
あえて、私を含めないのは零は私に頭が上がらないからだろう。
まぁ、正直、零が役に立ってると私は思えないし、逆に優姫の近くにいられるのが怖い。
「いつも出待ちに遅刻したりサボったりするヤツに言われたくないっっ!!」
「そうよ。優姫の言うとおりだわ」
「がいうなっ!!」
「零が・・・イジメル・・・優姫ぃ〜」
「零っ!!」
「なんで俺なんだよっ!たく・・・とにかく、どうにかしてくれ理事長!」
「無理だね」
即答の父さん。
それもそのはずだ。
風紀委員はナイト・クラスの秘密・・・ヴァンパイアだと知っている者でなければならない。
風紀委員は表の名。本当は『守護係』(ガーディアン)という名称だ。
そして、その役目がデイ・クラスとナイト・クラスとの共存を補佐すること。
「・・・まぁ・・・雑用ばっかだし、徹夜だし、憎まれるし、報われないし、イヤな役目だけどね・・・」
そこまで言うか。普通・・・
「でも、可愛い義息子と愛する義娘にやらせるならボクも心が痛まないしv」
案の定、零はキレて机を割った。
空手向いてるかも・・・なんて思ったのは内緒。
だって怒られるし。
「確かにあんたには世話になったとも!だが、あんたの義息子になった覚えはない!」
「錐生くんてホント細かいよね」
「おい、優姫と。お前は本当に黒主理事長の“義娘”なんだから何か言ってやれよ」
零は私と優姫を見ながら言った。
「優姫からどうぞ」
「うーん・・・でも・・・夜間部はまあまあ普通科とうまくやってると思うよ?私は協力できてうれしいなっ」
「さすがね。ねぇ父さん」
「何ていいコだ!!オトーサンは嬉しいよっっ!」
「私もよ優姫vvv」
「ボクの平和主義を理解してくれる人間は優姫だけだよ・・・!」
「私は?」
「あっ!もちろんもさ」
その「あっ!」ってのは何なのさ。
まぁ、父さんは優姫びいきってのは知ってるけど。
唯一の完璧な人間だからかな・・・
そう思うと悲しくなってきた。
でも、話は続くわけで。
「ボクはね!?大昔から闇で繰り返される“人間 対 吸血鬼”の争いに終止符をうちたいんだ。
そして若い『彼ら』に柔軟な心と持ち前の頭の良さで二つの種族の架け橋になってほしいんだ!!
そのための教育・・・!そのためのナイト・クラス・・・!」
こんなに熱弁なのはいいが、毎回のように繰り返されるこのセリフに零は呆れて部屋を出て行こうとする。
「見回り行ってくる。優姫あとはまかせた」
「あら、私は??」
「どうせ、理事長と同レベルだろ」
あっさりと酷いこと言って出て行くわね。
人生楽しく生きるには理事長のようにしなきゃ。
「・・・まあねぇ・・・錐生くんの言いたいことも分かるんだよ・・・ヴァンパイアの皆さんの中には人を襲う
おっかないヴァンパイアさんがいるのも事実だから。もし、ナイト・クラスの正体がバレたら大騒ぎになるよね・・・」
「枢センパイは違いますっ!!」
また、玖蘭枢・・・
優姫の枢LOVEも時にはイヤになる。
どこか傷をえぐられる感覚。
もしかすると、私の言葉を代弁してくれているのかもしれない。そう思うじぶんがいる。
「彼みたいな正義のヴァンパイアだっているんですから!いけますよ!平和主義!!」
「優姫・・・」
「だいじょーぶですよ!理事長!私たち『守護係』にまかせて下さい!!でわ、いってきまーすっ!」
そう言うと、優姫は窓から飛び降りて行った。
「本当は一番怖いのが玖蘭枢なのにね・・・」
「」
「ごめんなさい。つい・・・」
玖蘭枢。数少ない純血種。
人間にとって恐怖の存在。
それをまだ、優姫は知らない。
「私も見回り行ってくる・・・」
「。ボクは一番が二つの種族の架け橋となれると思っている」
「そう・・・」
「・・・気をつけて」
「私の心配はいらない」
「は義娘だから、心配ぐらいするさ」
「・・・ありがとう。父さん」
-次の日の夜-
理事長室に呼び出された私と零。
「話って?」
「薬ができた」
「血液錠剤・・・タブレットね」
「ああ。零くんには渡しておくよ」
零は静かに受け取り、部屋を後にした。
零の後姿が悲しく思えてくる。
それは同情かもしれないし、仲間意識かもしれない。
どちらつかずの体。
「はいるかい?」
「一応もらっとこうかしら」
「そうか・・・」
私は1つのケースを手にして中を確かめた。
すると、そこにはBL−XXXV06εと記されたタブレットが入っている。
それを見ると、さっきの零の後姿が気になった。
「零はヴァンパイアへの憎しみは消えないのね」
「・・・」
「しょうがないのかもしれないけど・・・私は怖いわ」
「なんでが怖い?」
「私の正体を知ったとき、零はどうするかしら」
嫌う?もう私を人間のとして見てくれない?
そんなことを思っていると、微かだが血の匂いがした。
「血?・・・優姫!!」
「っ!」
私は父さんの制止も聞かずに理事長室を抜け出す。
この匂いは優姫だ・・・
匂いを頼りに校舎の中を駆けた。
そして、目的のところに着くと、優姫とナイト・クラスの藍堂英と架院暁。そして、デイ・クラスの女の子が2人気絶していた。
優姫を腕の中に収めていた藍堂英の口端には血がついている。
とっさに理解した。藍堂英が優姫の血を吸ったのだと。
でも、今のところ手のみらしく優姫の意識はしっかりとしていた。
「優・・」
叫ぼうとしたその時、零の姿が目に入った。
『血薔薇の銃』(ブラッディローズ)を構え、藍堂英の額へと突きつける。
「学内での吸血行為は一切禁じられている。血の香りに酔って正気を失ったか、ヴァンパイア」
「だめ!零」
優姫は叫んだ。
なぜなら、本当に零は撃ちそうな気配だからだ。
「へぇ・・・でももう味見しちゃった」
完全に自我を失っている。
ヴァンパイアの本性を残して。
バァァン!!
撃った・・・零が。
でも、軌道は優姫によって木にのみ命中していた。
「ばか撃つなんて」
「本当よ」
「姉」
「大丈夫?優姫」
「あっ、うん」
木には銃の紋章が浮かんでいて、私はそれに目を向けた。
「私が間に合わなかったばかりに悪かったわね。でも、零、色々事情があるにしても簡単に撃つものじゃないわ。
そんなんなら、私が預かるわよ」
「・・・」
色々な事情。それはタブレットのことと吸血とヴァンパイアに対しての嫌悪感。
いつか自分が・・・それを否定したかったんだろう。
零は―――だから。
「それと、藍堂英。自我を失うほど、あなたは落ちぶれているの?」
「・・・すみません」
私は睨みをきかせていると、嫌な雰囲気が近寄ってくるのを感じた。
「とにかく、その『ブラッディローズ』・・・おさめてくれないかな」
玖蘭枢・・・雰囲気の正体。
「僕らにとってそれは脅威だからね・・・」
僕ら・・・それには本当は私も含まれているのかもしれない。
「・・・それと、この痴れ者は僕が預かって理事長のお沙汰を待つ。いいよね錐生くんに」
「・・・好きにして」
「・・・・・連れて行ってください玖蘭寮長」
私は必要な言葉を言い残すと、その場を後にした。
優姫を1度だけ抱きしめて、無事を確認するのと同時に「ごめん」と言ってから。
その時、玖蘭枢の視線に私は気付かなかったんだ。
血の匂い、私にも移った。
早くお風呂に・・・
優姫の血は正気をなくしてしまいそうだから。
next→
拍手←押してくださると嬉しいですv