「ねぇ、暁」


「なんだ?英」


「ボク、なんでかちゃんに逆らえなかった・・・」


「・・・」


「まるで、玖蘭寮長に言われていたみたいに」











本当の姿



〜聖ショコラトル・デー〜










今日は“月の寮”の前が朝から騒がしかった。

それもそのはず、なんせ今日は『聖ショコラトル・デー』なのだから。

もちろん、騒がしいのはデイ・クラスの女子達であって、優姫がそれを静めようと必死こいていた。





「デイ・クラスの皆さんはこれから授業が始まります!教室へ戻ってください!」





でも、聞く人がいるわけもなく、寮の周りを囲む塀によじ登ろうとする人もちらほら。

案の定、手を滑らせて落下する人が現れた。




「危ないっ!」




遠くから駆け寄ろうと私はするが、届くはずがなく、諦めかけてたその時。

ドサッ。と誰かがキャッチした。





「零・・・」


「えらーい!零!」


「・・・言っておくが、ナイト・クラスのヤツらは昼間は『月の寮』から絶対に出てこない。
 渡したいものがあるなら宵の刻−昼夜の校舎の入れ換え時間に来るといい。
 あんまりはしゃぎすぎると、せっかくの今日だけのイベントだってのに中止になるかもな」





私と優姫の言葉は一切 耳に入ってないような素振りの零。

確かに零の言うことは最もであるのだが言い方と表情に棘がありすぎる。

そのせいで、周りの女子はブーイングを言いながら校舎へと入っていく。





「・・・わざわざ聖ショコラトル・デーに女子を敵に回すよーな宣言しなくても・・・義理チョコもらえないよ」


「そうよ。女子を敵に回すと怖いんだから。ねー優姫v」


「ねー姉v」


「じゃあどうしろっていうんだ?俺達風紀委員の役割ってのは」





冗談の通じない零。

ちゃんとしてるんだか、サボったりして不真面目なんだか・・・わけわかんないわ・・・





「あっ!今日は私、放課後の風紀委員はできないんで!ごめんねぇ」


「はっ!?」「えっ!?」


「ちょっと待て。今日は1番やっかいな日だぞ」


「そうよ!姉がいないとみんな並んでくれるかどうか・・・」


「ごめんね。優姫・・・」


「俺はナシかよっ!!」


「ああ。零も」


「なんだ!その謝る気のなさ」


「本当にごめん!じゃあ授業始まるし行くね!」





毎年、私の仕事だったのだ。

でも、今年からは頼れる優姫と零がいる。

だから、今日だけは抜けたかった。

本当はこの日は私にとってつらい日だったから・・・

























今日は姉はいない。

って、まぁいつもいないんだけどね。

この日は私にとっては初めてで、ちょっとおびえてる。

でも、楽しみな部分もあったりする。

枢センパイに渡すの。チョコを・・・




−宵の刻−


デイ・クラスの女子達にルールを説明して、並ばせていると、ナイト・クラスの人達が出てきた。





「おおーっっ。今年はなんだか皆気合い入ってない!?すごい!楽しそう!!」


「ふあ・・俺は寝不足・・・」




藍堂センパイは気合い入っていて、対する架院センパイは眠そう。





「はい!聖ショコラトル・デー恒例『普通科女子ゲートイン!チョコを渡せるのは何人まで!?レース』。
 ナイト・クラスの皆さんは沿道に並んでいるご自分のゲートに立って、1列に並んだ女子達からチョコを
 受け取ってあげてください。ご協力お願いしますっ!いいですか?ナイト・クラスの皆さん遊びではありません!
 女の子たちは真剣ですから!」


「1つ残らずもらってあげなきゃねーっっ」




勢いよく飛び出して行ったのは藍堂センパイ。

そんなにチョコ好きだったんだ。





「藍堂・・・行儀よくするんだよ?わかっているね・・・」


「・・・はい」





さすが枢センパイ。1発で藍堂センパイを鎮めてくれた。

こっちはOKと・・・

架院センパイの列は押していて、私はそれを止めにはいった。

その間に枢センパイはチョコを受け取り終わったのか、私に挨拶してくれた。





「ご苦労様。優姫」


「はい!」




あっもう行っちゃうんだ。






「ケガしないでね」


「は、はいっ」





そのまま校舎に向かう枢センパイ。

・・・渡しそびれちゃったな・・・





「架院先輩は・・・きゃ・・」





なだれ込む人のせいで私は押され、倒されてしまった。





「玖蘭先輩!」




近くで声のしたのは零の声。





「落し物ですよ」





枢センパイの手には渡す予定だったチョコが。





「え!?あ・・・それいつのまに。零っ」


「もらっていくよ。ありがとう優姫」


「い、いえ」


「そういえば、今日はがいないね」


「なんでも今日は手伝えないって」


「・・・そっか。頑張ってね、優姫」


「はいっ!」





枢センパイが姉のことを聞いてきたのは初めてのことだった。

いつも見てくれていることを知らない私は、いつもいないのに、なんで今日だけ?なんて思った。











そんな頃、は・・・












「キツ・・・これだから満月は嫌いなのよ・・・薬、どこだっけ・・・」





の口には鋭い歯が光っていた。

ヴァンパイア特有の鋭い牙が。

そしての鼓動が激しく1度だけ跳ねた。





「零・・ね・・・」





薬・・・タブレットを飲み、少し体が楽になったところで理事長室へと向かう。

そこに零がいるはずだと思ったから。
















next→






拍手←押してくださると嬉しいですv