理事長室には案の定2人の姿が。
本当の姿
〜ヴァンパイア化〜
「避けても逃げても何も変わらない。なのに君はギリギリまで無理をして・・・」
「父さんの言うとおりよ。零」
「・・・君もかい・・」
「大丈夫よ。私は。それより零、あなたはいつまで「やかましい・・・っ」
話している途中で叫ばれた。
ただでさえ、体のきついのを我慢して来た私にとってイラッとさせるには十分な行為。
だからつい、私も叫び返してしまった。
「いい加減にしなさいっ!あなたに何が出来るの!しょせんは逆らうことなんてできないのよっ!」
「。やめなさい」
「でもっ!」
父さんはコップにあるものを注ぎ、零の元へともってきた。
相変わらず、零は苦しそうにしている。
「零。楽になるから飲みなさい」
「・・・中身は」
「君の知っているものだよ」
そう。血。
素直に飲むはずのない零はコップを突き飛ばし、割った。
「絶対にいやだ」
「・・・最近、発作の間隔が急に短くなっている。このまま拒み続ければもっと辛くなるだけだよ。
もう今までどおりじゃいられないことをいいかげんに分かりなさい。いや・・・もう分かっている・・か・・」
「これだけでも、飲みなさい。少しは落ち着くでしょ」
私は無理矢理にでも零の口へタブレットを放り込んだ。
零のことは小さい頃から知っている。
こういう体になったことは。
でも、零は私の体のことはまだしらない・・・
−次の日−
「父さん、どうするつもりですか。零は・・・」
コンコンッ
「はいってかまわないよ。・・、少し待っててくれるかい?」
「うん」
ノックがして、入ってきたのはナイト・クラスのクラス長および、寮長の玖蘭枢だった。
私は壁の方にあるソファへと腰掛ける。
もちろん、玖蘭枢は私に目を配らせることを欠かすことなく。
「やあ枢くん。君が来るような気がしていたよ」
「・・・黒主理事長。錐生零をいつまでデイ・クラスにおいておくつもりなんです?
彼はもうすぐそこまで“その時”がせまっている」
「・・・さすがに枢くんだけは欺けなかったか・・・やはり君は別格だよね。
先祖からの血脈にただの一滴も『人間』の血が混ざっていない・・・今ではヴァンパイアの中でも稀な血統・・・
強力だった古のヴァンパイアの能力を受け継ぎ、他のヴァンパイアにすら恐れられる存在だ。
ヴァンパイアの中のヴァンパイア…“純血種”…君の存在のおかげで問題児ばかりのナイト・クラスがよくまとまっているよ」
「黒主理事長。貴方を信頼しているのでこれまで口出しをさけてきました。
ですが、貴方は多少の手をうっただけで今も普通の生徒として零を扱っている・・・
貴方はご自分の平和主義の理想を零に壊させるつもりですか?」
「零はあなたのように上に立てるヴァンパイアではないの」
「・・・君はこのままでいいと?」
「じゃあ聞くわ。零を今ナイト・クラスへ行かせたとして、零がやっていけると思う?
あなた達ヴァンパイアに蔑まされるだけだと私は思うわ」
ただでさえ、レベルE(人間からヴァンパイアになった者)を見下さしている人たちが。
「しょうがない。彼はヴァンパイアへと変貌しつつあるんだから」
「・・・しかし、錐生くんは両親をヴァンパイアに殺され・・・その血の海の中で彼だけが奇跡的に助かった。
これ以上酷なことができるとおもうかい・・・」
「けれど一家を襲ったのはただのヴァンパイアじゃない。僕と同じ純血のヴァンパイアなのでしょう?」
話を聞いていたら、自分がいつの間にかヴァンパイアになっていた。
体に負担がなかったのは玖蘭枢がいたからだろう。
何故か私の体は、純血種といると大人しい。
時折、暴走をするが・・・一応今回は大丈夫だったらしい。
玖蘭枢も気付いている様子はなく、話を続けていた。
「“純血種”の牙にかかった人間はヴァンパイアに変異する」
「・・・そうだよ枢くん。零の血を吸ったのはただのヴァンパイアではなく、“純血種”だ・・・」
「・・・純血種に咬まれた人間の末路は二つだけです。喰らわれた血が致死量に達し“死ぬ”か・・・
運悪く生き延びじわじわと“ヴァンパイア化”していく苦痛に苛まれるか・・・
他のヴァンパイアには有り得ない『魔力』だ・・・」
そう説明した玖蘭枢の顔は少し寂しそうに見えた。
純血種であることがイヤなのか・・・
玖蘭枢もまた、私と同じく自分の身を嫌悪しているのか・・・
「元は『人間』にすぎない彼が4年・・・『ヴァンパイア』の強烈な本能に抗い続けた精神力は尊敬に値します」
ドクンッ!
昨日と同じ・・・
鼓動が跳ねた。
「零っ!あのバカ・・・」
私は理事長室を後にしようと扉を開けた。
その時漂ってきた匂いに私と玖蘭枢は反応した。
「どうしたんだい。、枢くん」
「「血臭が・・・」」
「これは・・優・姫・・」
私は玖蘭枢と共に血臭のする方へとむかった。
まさか零が・・・?
でも、零がヴァンパイア化した時に血臭がした。ということは零じゃないかも・・・
そう期待した。
でも、目にしたものは、首・手を真っ赤にさせた優姫と、口元を赤く染めた零だった。
私はそれを確かめると動けなかった。
零がヴァンパイア化したことに気付くのが遅かった理由が知りたかったのだ。
「優姫・・・!?」
「か・・・枢センパイ・・・」
「血に飢えた獣に成り下がったか・・・錐生 零」
優姫を庇うようにして立つ玖蘭枢。
その時、優姫は初めてヴァンパイアに襲われた時、枢センパイがヴァンパイアを殺して助けてくれた時の記憶がよぎった。
枢センパイが零を殺す・・・そう思ったのだ。
「やめて!枢センパイ!!」
でも、血の吸われた優姫は貧血状態となり、意識を失った。
「・・・優姫・・・?」
「大丈夫よ。零。貧血状態なだけ・・・」
「、俺・・・」
「むごいぐらい血を貪ったね。優姫が・・・立っていられなくなるまで。そんなに優姫の血は・・・おいしかったかい・・?」
「玖蘭枢!そこまで言わなくてもっ!!私がいけなかったのよ・・・」
「、君はやさしすぎるかもしれない。同情はやめたほうがいい・・・」
「っ!!」
私の正体を知っていての言葉なのか、知らなくての言葉なのか・・・
玖蘭枢は、優姫を抱え保健室へと向かった。
「理事長」
「ああ・・・わかっているよ・・・」
その時、父さんが来ていたことに私は気付かされた。
「父さん、私・・・気付けなかった。こんなこと初めて・・・玖蘭枢がいたことで気が緩んでた・・・」
「、君のせいじゃない」
「私、ヴァンパイア化した零に気付くのが仕事でもあるのに・・・それ取ったら存在価値ないよ・・・
零と優姫を守れないよ。ごめんね零。私が役立たずで・・・ごめんね」
零を抱きしめて私は何年かぶりに泣いた。涙を流した。
相変わらず零は自分がしてきたことに罪悪感をかんじているかのようにぼーっとしている。
「。君は悪くない。しょうがないんだよ・・・」
「今日に限って、純血種が近くにいたことで感覚が鈍っていたんだ私・・・」
「とにかく零を」
「私が責任をもって零を部屋に届けるから。父さんはナイト・クラスへ。たぶん血臭は届いていると思うから」
「分かった。じゃあ頼むよ。・・・、あまり自分を責めないで・・・」
「・・・・」
私は零を正気に戻すと、理事長室の隣にあるシャワー室へと向かった。
「血の匂い消して。優姫の血は私でも我慢できるか分からないから。
あと私は部屋で待ってる・・・上がったらちゃんと部屋に帰ってくるのよ」
「・・・俺・・・」
「大丈夫。優姫は死んではないのだから。まずは綺麗にして、優姫に会おう?」
「・・・」
無言のまま零はシャワー室へと入っていく。
その背中を私は見送って、部屋への廊下を進んでいった。
「・・・」
声をかけられ振り返ると、そこには玖蘭枢が立っていた。
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