−月の寮−
「今日は休日だというのにさ・・・大変だね・・・いつも君はゆっくりする事ができない」
今僕の部屋にいるのは一条拓麻。ナイト・クラスの副寮長でもある。
本当の姿
〜レベルEのヴァンパイア〜
「『元老院』がいちいち報告書をよこせとうるさいんだ・・・」
「・・・で、じい様方のためにイヤイヤ文章書きね・・・漫画をよみふけって昼夜逆転ぎみな僕とはワケが違うか。
ねぇ、枢。『元老院』で思い出したんだけど、最近は『異血種』について何も言って来ないね」
“異血種”・・・昼間は人間であり、夜はヴァンパイアと化す異例の存在。
その言葉を聴いた時、僕はハッ!とした。
頭によぎったのは。
もしかすると・・・は異血種?
「いつも純血種には異血種の管理を任されるのに。異血種は失ってはならない存在だから、
苦痛を和らげるために純血種の元へ。それなのに、最近ずーっと音沙汰なしでしょ。
見つかんないのかな?行方不明の異血種」
「・・・・」
「さーてっと・・・漫画の続き読もーっと・・・」
「一条」
「・・・・・・何だい?枢」
僕は一条に頼みごとをした。
元老院からも文句が出ていたし。
あるものの処理を・・・
「ちゃん」
そう呼びかけられた先には一条拓麻と支葵千里。
「何?ナイト・クラスが何か?」
「相変わらずきっついねぇ」
「そうかしら?まぁ正直あまり好きじゃないから」
夜の自分を見ているようで。
「今から街に出かけるんだけど、ちゃんも行くでしょ?」
「それは遠慮願いたいわ」
「でも、理事長からちゃんも連れて行けって。なんでも優姫ちゃん達2人して街に出てるみたいだよ」
「・・・そう。じゃあ一緒していいかしら?」
「それは大歓迎だよ。ねぇ支葵」
「うん」
私は一条拓麻と支葵千里と共に学校を出た。
そして向かった先で私の鼓動が1度はっきりと跳ねた。
「これは零・・・じゃない」
「どうしたの?ちゃん」
「こっち。たぶん優姫達はこっちにいるわ」
私が先頭きって鼓動を鳴らせた方へ向かう。
すると、目にしたのはレベルEのヴァンパイアと零、優姫。
「・・・血・・・」
「・・・・・・・お前、元は人間か・・・」
「さあ!?どうだったかな」
襲い掛かろうとするヴァンパイア。
その瞬間私の横を2人の影がよぎった。
そして、ヴァンパイアはみごとに真っ二つに・・・
「えっ・・・あなたは・・・!」
反応を示したのは優姫。
その間にヴァンパイアは砂へとかえっていった。
「完了っと」
「別にオレ必要なかったじゃん」
剣で見事に切ったのは一条拓麻。
そしてグチをこぼしたのは支葵千里。
「ナイト・クラス・・・一条拓麻先輩、支葵千里先輩・・・どうしてこんな所に・・・
どうしてあなたたちが“外”でこんな事を・・・」
「優姫ちゃんダメだよ。早く戻って傷の手当てをしておいで。僕達の嗅覚には刺激的すぎる。
その吸血鬼を始末した理由・・・?気になるなら今夜・・・真夜中『月の寮』の裏までおいで。
ゆっくり話を聞きたくない?」
言い残して一条達は私の方へと戻ってきた。
私は優姫達から見えない位置に立っていたから、優姫達に気付かれることもなく。
「どういうつもり?」
「何のこと?」
「あの危険な場所に呼ぶなんて」
危険な場所、それは月の寮のことを示す。
「大丈夫。ちゃんとガードをつけるつもりだし。・・・心配ならちゃんも来ればいい」
「・・・・。一応助けてくれたお礼はするわ。零が役立たずでごめんなさい」
「ちゃんって錐生くんにもひどいんだね」
「今回は守らなければならなかったのよ。零は。なのに、あんな戸惑っちゃて。
ヴァンパイアハンターとしては失格ね・・・」
は悲しそうな笑顔を2人に見せた。
そして、それに対して2人は何もいえなかった。
「じゃあ私は行くわ」
「うん。気をつけて」
「ありがとう」
お互い背を向けて歩き出す。
私は優姫のところまで歩いていった。
「優姫、零」
「姉!?なんでここに」
「2人が街に出たって聞いてね。優姫が心配だったのよ。学園の外は優姫にとってイヤな思い出があるでしょ」
優姫がヴァンパイアに襲われたのは街でのこと。
だから怖いのかもしれないと。
「姉まで。零と同じこと言わないで!!」
「ええ〜零と同じこと言ったの?私」
「私は怖くないよ。十年も前のことなんて」
「そう。ならいいんだけど。用事は終わったの?」
「うん」
「じゃあ帰ろうっか。怪我の手当てしなきゃ」
歩き出したその時、漠然とした不安に駆られた。
この感覚は、何人ものヴァンパイアを殺したヴァンパイアハンターが訪れることを意味している。
まだ遠いから私も大丈夫だが、近づくにつれてその不安が大きくなってきている。
自然と優姫と零を学園へと促して帰宅することにした。
理事長の私的住居区・・・
「ボク風レバニラ。ボク風チンゲン菜とフィレ肉のとろけるシチュー。
ボク風かつおのタタキしそだれセロリの千切り添え。その他色々。どう!?おいしい!?」
「「・・・」」
黙々と食べ続ける優姫と零。
「うううう・・・久々の親子3人の食卓なのにさっ。料理だってガンバったのにさっ」
「いつも言ってるけど『ボク風』が微妙」
「オレを『親子』に数えんなっていってるだろ」
「・・・・ま・・・いーや。元気に食べてくれてるし・・・。がいないのがちょっと痛いけどね!」
「そういえば姉は?」
「なんでも気分が優れないって寝てるよ」
「そっか。せっかく一緒に食べれると思ったのに」
その頃は・・・
「まだ夜会は始まってないようね」
そう月の寮の裏の木へと登り、タブレットを取り出して口に入れていた。
「相変わらず美味しくないタブレット・・・」
next→
拍手←押してくださると嬉しいですv