いつの間にか眠っていたらしく、ザワザワした雰囲気で起こされた。

だからうるさいの嫌いなのよ。











本当の姿



〜ヴァンパイアの仕組み〜











ザワザワとした雰囲気の原因は優姫と零だった。

起こされたことで気が付いたが、ほぼ全員と言っていい程の私服のナイト・クラスがいた。

零と優姫の脇には藍堂英と架院暁。

いわゆる玖蘭枢の懐刀。話では従兄弟らしい。





「こっちだ」





架院暁の声で優姫達は促される。





「一条“副寮長”2人を連れてきたぜ」


「あ。いらっしゃい優姫ちゃん、錐生くん」





やけに明るく迎える一条拓麻。





「今夜は僕の誕生日パーティーなんだっ。楽しんでいってよ」





一条拓麻の周りにだけ空気が違う。

それから色々と話が進む中私は玖蘭枢の気配を体で感じていた。

ヴァンパイア化した体では色々な器官が敏感になっていることに気付かされる。



そして、ついに優姫が本題を持ち出した。





「やっぱり見過ごせないです。無断外出は校則違反だし・・・いえ・・それより・・・あのヴァンパイアのこと・・・」


「・・・いいよ。なんでも聞いて。この場のみんなが知っている事だから」


「・・・街中をあんな危ないヴァンパイアがうろつくなんて普通ありえませんよね・・・。
 それに一条センパイ方はわざわざ彼を殺しに来たんですよね・・・?あのヴァンパイアは何なんですか?」





優姫の問いに答えたのは一条ではなく、藍堂だった。





「あれは“元人間”のヴァンパイアだ。汚らわしい」


「・・・っ」


「藍堂」





止めに入った一条。そして、代わりに説明を始める。

やっぱり、ここにいるヴァンパイアは元人間のヴァンパイアを見下している。

代わりのないヴァンパイアのクセに・・・





「優姫ちゃん・・ヴァンパイアの社会は頂点の数人の「純血種」と一握りの「貴族階級」のヴァンパイアが
 支配しているんだ。ナイト・クラスは全員貴族階級以上なんだけど・・・
 ピラミッドに喩えるなら“元人間”は一般のヴァンパイアのさらに下だから・・・正直あまり大事にされていない」





ピラミッドでは頂点からレベルAとして、


 レベルA:純血種
 レベルB:貴族階級
 レベルC:一般のヴァンパイア
 レベルD:元人間のヴァンパイア


とされている。
  




「僕が殺したあのヴァンパイアはそのピラミッドからも外れてしまった存在―――<レベル:E>」


「レベル・・・E・・・?」




何も知らない優姫に次々と知識を植え込んでいく。

前の私なら止めたけれど、今回はいい機会だと思う。

いつかは零を・・・私を止めなければならないのだから。





「正確には<LEVEL:END>そのぐらいまでなら隣にいる錐生くんがしっているんじゃないか?
 ヴァンパイアハンターの家の生まれだぞ」





藍堂がそう言えば零は続きを述べ始める。





「・・・“元人間”は遅かれ早かれ必ずその<レベル:E>に堕ちるんだ・・・優姫。
 徐々に理性を蝕まれ“END”―――限界・破滅にいきつく」


「そう・・・そして際限なく血に飢え、手当たりしだい人を襲うようになる。
 だからこそ元人間のヴァンパイアは貴族階級以上によって管理されるものなんだ」





一条は零に続き、淡々と言葉を続ける。





「管・・・理・・・」


「だけど稀にアクシデントもあってね、狂ったヴァンパイアが貴族の支配下から逃げ出し人間社会に迷い込むことも・・・」





その時、玖蘭枢の姿が声と共にあらわれた。





「今日、この街に<レベル:E>のヴァンパイアが現れるという報告があったんだよ。
 一条と支葵にはそれを狩りに行ってもらったんだ。・・・僕の命令でね」





そして、辺りがまたざわめきだす。

「枢様・・・」と。





「枢様が夜会に・・・珍しいことだ・・・」





そんな言葉が聞かれる。

そんなに優姫が心配なのかしら・・・





「センパイが・・・あのヴァンパイアを・・・」


「・・・優姫。どうして理事長に報告しなかったの。風紀委員のくせに一条に言われるまま」


「それはっ・・・」


「こんな危ない所に来てしまって―――」


「・・・簡単に告げ口していいものとは思えなくて・・・それに・・・直接確かめたかったし」


「・・・直接・・・ね・・・。こっちにおいで。優姫も錐生くんも」





そのまま庭が見渡せるソファに玖蘭枢は腰掛ける。





「優姫、横に座って」


「へ!?」


「・・・いいから」





その言葉とともに女子の殺気が増す。

ヴァンパイアの女子も乙女ということかしら。





「結構です」


「優姫」





玖蘭枢の言葉には有無を言わさない重さがあり、優姫は大人しく横にすわった。

そして、肩を抱き寄せる。

この時私の心の中でチクッとした痛みがはしる。

なんだかんだ言っても私は玖蘭枢が好きなのかもしれない。





「僕の隣が一番安全だよ・・・」


「枢・・・センパイ・・・」


「・・・悪かったね。まさかあの“狩り”の現場に優姫が居合わせるなんて計算外だったから・・・」





それから優姫と玖蘭枢の会話が続き、玖蘭枢はナイト・クラスの役目・・・狩りの話をした。

すると、それに反応したのは零。





「ヴァンパイアを狩るのはヴァンパイアハンターの役割ですよ」


「・・・じゃどうして君が先に彼を殺してあげなかった?もしかして錐生くん・・“彼”に同情した?」





零は静かに素早く銃を突きつけた。

しかし、ナイト・クラスの星煉が零の首に指を立て一筋の血を流させた。




「星煉、いい。言ってはいけないことを言ったのは僕だ」


「零・・・」


「・・・びっくりしたなぁもう・・・」





一条の言葉で少しだけだが、雰囲気が和らぐ。

でも、ヴァンパイアの頭となるべき玖蘭枢に銃を突きつけたことに対して怒りの静まらないものもいる。

その先頭が藍堂英だ。





「枢様に銃口を向けるとはね・・・錐生・・・この場で八つ裂きにしてもまだ足りない」


「こらこら藍堂。本当にやっちゃだめだよ」


「ああ・・・なるべくこらえるよ。学園にいる間は・・・黒主理事長の“平和主義”を僕は否定したくない。
 だが忘れるな。“純血種のヴァンパイア”・・・枢様がいるからこそ僕たちもまた、この黒主学園に集ったんだ」





しまった。一番今優姫にバレたくないことを言われてしまった。





「枢センパイが“純血種”・・・」


「・・・初めて知ったような顔だね優姫・・・。恐い・・・?」


「・・・枢センパイは昔からほんの少しだけ恐い・・・です。今もほんの少し・・・だけです」





よかった。もし、ここで優姫が玖蘭枢を拒絶した時、優姫はヴァンパイアを否定してしまう恐れがあったのだ。

だから、私はずっと隠し続けた。玖蘭枢が純血種であることを。

零をヴァンパイアへと変えた同じ純血種だということを・・・




そして、零はケーキを切ろうとした一条の指が切れて血が出たのをきっかけにヴァンパイア化がでてきたのだろう。

その場から静かに離れた。優姫はいつものようにそれを追う。

私もいつものように追おうとしたら呼び止められた。





、いい加減出てきたらどうだい?」





玖蘭枢だ・・・

私は静かに木から下りる。

すると、ナイト・クラス全員の視線が集まった。





「いつから気付いていたの?」


「ずっとだよ。、おいで・・・少し話をしよう」


「遠慮願いたいわ」








またも有無を言わさない言葉。

それにヴァンパイア化した今の私にとって純血種である玖蘭枢の言葉に逆らえるわけもない。

私は立ち上がって部屋の中へと進んでいく玖蘭枢の後についていった。















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