それに今の私にとって純血種である玖蘭枢の言葉に逆らえるわけもない。

私は立ち上がって部屋の中へと進んでいく玖蘭枢の後についていった。

そして、恐らく玖蘭枢の部屋と思われる場所について、玖蘭枢は一言。





「今はヴァンパイアなんだね」


「なんのこと?」


「“異血種”・・・知っているだろう」


「!?」











本当の姿



〜異血種の存在〜











気付かれた。

異血種の存在に。





「今日気付いたよ。異血種の存在に。ずっと忘れていたから・・・・
 異血種は、レベルAとレベルBの間の存在だが、数が少ないことでレベルでは“S”とされてきた。
 昼は人として、夜はヴァンパイアとして生きる異血種。満月の夜はヴァンパイア化が激しくなる。
 ・・・聖ショコラトル・デーの日は満月だったから君はいなかった。・・違う?」


「・・・そうよ。あなたに・・・純血種に管理されるべき異血種よ。私は」


、僕はそんなこと思ってはいない」


「私は今までの異血種と同じようにあなたに管理されるような異血種になる気はないわ」


「それでいい・・・僕はそんなが好きだから・・・」


「っ!?何を急にっ!!」


・・・」





後ずさる私に近寄り、玖蘭枢は私の頬へと手を添える。





「私は・・・!!!!」





玖蘭枢の言葉に答えようとしたとき、また漠然とした不安が私を襲った。

しかも今度はかなり近い。

私は自分を抱きしめ、座り込み、そして体は恐怖で震えだしたのだ。






・・・」






様子のおかしい私に枢はそっと近寄り、屈んで私をそっと抱きしめた。

そして、私は助けを求めるかのように玖蘭枢の胸にすがりついた。






「ヴァンパイア・・・ハンター・・・が・・・来るっ。いやぁ・・・枢ぇ・・・助けてぇ」





すがりつくような声しか出せない

いつもの強気なの姿はない。

枢は私を強く抱きしめ、落ち着くよう囁いてくれた。





、大丈夫だから。君には僕がいる・・・ずっと傍にいるよ」


「かな・・め・・・・」




は枢の言葉を聞き、静かに眠りへと変わっていった。





・・・」





ヴァンパイアにとって異血種を大切にする理由。

それはこうやって“ヴァンパイアハンターの位置が分かる”ことと

“人間がヴァンパイア化した時近ければ位置が分かる”から。



その代わり、異血種は純血種がいなければ満月の夜に苦痛を伴ったヴァンパイア化をしてしまう為、

そして、このように宥められるのは純血種のみだから、純血種が傍にいるのことを提供するのだ。



そう。異血種と純血種の互いの等価交換。

満月の夜の苦痛は尋常ではない。

だから、枢がいる時、は苦痛なんかない変化を迎えられた。

そして、今回のヴァンパイアハンターに対する漠然とした不安を抑えるのも枢だからできることなのだ。




ヴァンパイアハンターに対しては同じ人物であれば幾度かこういった不安を感じれば、

自体も慣れ純血種なしでいられる。

しかし、それまではとても苦しく、恐怖に押し潰されそうになるのだ。





枢はを抱きかかえると、自分のベッドへ連れて行った。

そして、ゆっくりと寝かせると、ずっとの頭を撫ではじめた。





・・・君はいつになったら僕を必要としてくれるの・・・?」

















−理事長室−



コンコンッ





「失礼します。黒主理事長」


「枢くん。どうしたんだい?」


のことで・・お話が」


「・・・・」





辺りが重い空気へと変換される。





が・・異血種だと知りました」


「・・そうか。さすがは枢くんだ」


「それとヴァンパイアハンターが現れましたね?」


「ああ」


「そのせいでは今は眠りについてます。・・・僕の部屋で・・・」


「そうか・・・悪いね。一時期は枢くんの傍を離れないよう頼むよ。まだそのヴァンパイアハンターは滞在するから」


「『ハンター協会』ですね・・・わかりました」




















そして、が目が覚めたのは次の日の夜。

それもそのはず、来ていたヴァンパイアハンターは“夜刈十牙”(やがりとうが)。

ヴァンパイアハンターで今No1と言われる男なのだから。

ヴァンパイアハンターの力に比例して眠る異血種の能力のせいで、の眠りは長いものになったのだ。





、大丈夫?」


「うん・・・ごめん」


「いいんだ。僕はどういう形であれ、の力になりたいから」


「・・・ありがとう。私、もう行かなきゃ」





がベッドから立ち上がろうとする。

しかし、僕がの肩を優しく押さえつけて、寝かせた。





「枢?」


「今はまだ校舎にはハンターがいる。大人しくここにいて。いい?」


「・・・でも」


「理事長からもお願いされていることなんだ。いいね?」


「・・・わかったわ。少しの間お世話になります」





久しぶりのに笑顔が見れたことに僕は喜びを感じた。





「じゃあ僕は理事長にが目覚めたことを知らせてくるよ」


「お願いします」


「敬語はつかわないで。昔のように・・・」


「・・・うん」





の額に軽くキスを落とすと、は真っ赤になって怒った。





「枢っ!!」


「僕は昨日の言ったことは嘘じゃない。好きだよ・・・


「・・・」





ドアを出ると、中では静かに「どうしよ・・・嬉しい・・・」と呟いたのだった。

そして、理事長室を訪れるが理事長の姿はなく、僕は理事長の私的居住区へ向かう。

すると、道でばったり会ったのは優姫だった。






「・・・どこに行ってたの優姫・・・?」


「あの・・・ナイト・クラスの授業は・・・」


「終わって全員、寮に帰したよ・・・。理事長に話があるんだけど、こっちの方にいるのかな?」


「いえ・・・」


「そう・・・」





僕は優姫に近づき、髪の毛を1房手にとった。





「毛先・・・濡れてるね・・・何かを洗い流した・・・?」





その言葉に過剰に反応した優姫。

その時、優姫の首に見えたのは絆創膏。

零に・・・咬まれたな。


僕は怒れなかった。どこかに似ている優姫を。

そして、代わりに抱きしめた。





「枢セ・・・」


「いつからだっただろうか・・・優姫が僕に全てを話さなくなったのは・・・。
 十年でや君が・・・ただ一つ変わってしまった所・・・。・・・・もうおやすみ。優姫」





優姫の後ろに見えるの影。

どこかで優姫にを重ねていた。






「おやすみなさい・・・枢センパイ・・・」





優姫は来た道を後にした。

そして、代わりに感じる気配。

ヴァンパイアハンターの夜刈だ。





「純血のヴァンパイアが優しく腕に抱く少女・・・か・・・。
 なぜあの小娘を別格扱いするのかは俺は興味ないがな。・・・あの娘が今さっき何をしてきたのか
 君が気づかんわけがない。さぞ、はらわたが煮え繰り返っているだろう・・・?」





そうかもしれないな。

でも、今は夜刈に消えてほしい。

を苦しめる存在。。。ヴァンパイアハンターの夜刈に。





「なのに優等生らしく大人しくしているのが気味悪い・・・目的は何だ・・・
 なぜ零を八つ裂きにしてしまわない・・・?」





そんなのは決まっている。





「彼女を失わないため・・・ですよ」





そう。零を殺せば、優姫は絶望へと堕ちるだろう。

そして、優姫を好きなは僕を決して許さないだろう。

優姫の血にも興味はあるが、それよりも僕はを失いたくないのだから。















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