お母さん、お父さん。

今まで本当にありがとう。







☆決別☆








あれから2日。

忍足のお父さんが言った、父の最期の日かもしれない日がついに来た。

でも、最近調子がいいらしく、明日まで大丈夫だろう。と言われた。

母もしゃべるのは一生懸命というところまできていた。

父も母も脳の障害がでてきているらしい。

そして、脳が死に体も・・・だそうだ。

残酷過ぎて私には理解するのが難しかった。

目の前の人が近いうちに死んじゃうなんて、そう実感できるはずもない。



私が父と母の間で2人の手を握っていたら、葉月さんが話しかけてきた。




様、さしでがましいとは思いますが、お2人の為にピアノを弾いてくださいませんでしょうか?」




ピアノか・・・

私は少し考え、葉月さんに笑顔で頷いた。

葉月さんも嬉しかったようで笑顔で返してくれた。






次の日、休日ということもあって私は朝早くから病院へ足を運んだ。

今日は病院の中にあるリハビリ室を借りてピアノを弾かせてもらうことになっていた。

リハビリ室に行くと、葉月さんを中心とした使用人がセッティングをしていた。




「葉月さんっ」


「あっ、様」




私が大声を出すと、みんな私の方を見て頭を下げた。

こんな子供に頭を下げるってどういう気分なんだろう。

フッと思った。

突然現れた子供が跡を継ぐことにさえ納得しない人だっているはずだ。

その証拠に作業を真剣に黙々と続ける人もいれば、私の方をチラチラと見る人もいる。

私は視線が気になりながらも、真中にあるピアノまで歩いていった。

そして音を出す。



ポーン



「いい音。これなら大丈夫。お母さん達を喜ばせられる」




葉月さんに向かって笑顔を見せる。




「葉月さん、お願いがあるの」


「はい。なんでございましょう」


家の人達も呼んで欲しい。ちょうど両親も帰ってきてるし」


「かしこまりました」




葉月さんは頭を下げ、リハビリ室を後にした。



















昼、リハビリ室に車椅子で父と母が来た。

もちろん看護師さんが押していたけど。

その横には忍足のお父さんもいる。



そういえば、あれ以来忍足とも会ってない。

会えるわけがない。



もクラスに来なくなった。

部活もあれ以来行ってない。

行けるわけがない。




悲しい気分になったけど、私は気持ちを切り替えて父と母の元へ行った。




「お父さん、お母さん。わざわざ移動してもらってごめんね。今から私のピアノ聞いてください」




母は頷き、父はかすかに手が動いた。


それを確認すると、次は家へ。

今日でゆっくり話すのは最期だと思うから。




「今まで育ててくれてありがとうございました。すっごい楽しかった。
 私、家の一員になれたこと誇りに思う。これからも、私の家族でいてください」


ちゃん、当たり前じゃない。これからもあなたは私達の娘でもありますからね」




笑顔で言ってくれる母。




「これからも頼ってくれてかまわないからな」




いつもあまり話さないけど、優しさのあふれ出ている父。




「姉貴、これからも頑張れよ」




いつも生意気な



みんなを回ると、私はピアノの椅子に座った。



シーンと静まり返る部屋でピアノの旋律だけが部屋を駆け巡りはじめる。

みんな私のピアノに耳を傾けて。



















弾き終えると、私は家の父と母を見た。

2人とも目を瞑っていて、涙を流していた。


医院長は、私に向けて首を振った。


それは、“決別”を意味していることは容易に理解できた。

もう時間切れだったんだと。



私は涙がこぼれた。

父と母に向かって足を進める。

そして、2人の手を握り、膝立ちになった。




「どうだった?私のピアノ。ちゃんと最後まで聞いていけたかな?最後に2人に会えたこと、嬉しかった。
 これから、頑張るよ。お父さん、お母さん、お疲れ様。たくさん休んでね」



そう言って私は2人に抱きついた。

これで最後なんだと・・・


2人一緒にいけたことだけ良かったと思った。

孤独はつらいから。。。



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私はその日、葉月さんと話す時間を設けた。

場所は家。




「わざわざごめんなさい」


「いえ」


「葉月さんは父の秘書ですよね?」


「はい。生前勤めさせていただきました」


「これからは私の秘書、教育係りとしてお願いしますね」


「はい。確かに承りました」




お互い、リビングで向かい合ってソファに腰掛けていた。




「そこで、今回の話っていうのは、私高校を辞めるつもりなの」


「そんなっ!学校でしたら卒業してからでもかまいませんっ」


「ううん。早く会社に慣れなきゃ。私の場合養子だったから何も家について理解していないから」


「・・・・」




納得していない表情の葉月さん。




「社員に舐められるようじゃやっていけないじゃない。みんなを納得させるような人になりたいから」


「・・・・わかりました。様の言うことでしたら」


「ありがとう。来週いっぱいで辞めるわ」


「では、手続きはこちらでさせていただきます」


「そこまでしなくていいよ。葉月さんは父がいなくなって仕事が溜まってるはず。それを済ませて」


「しかし・・」


「会社潰す気?」


「そんなっ!?」


「でしょ?じゃあ私が来るまでの間、会社の方をよろしくお願いしますね」


「はい」




この時、葉月はは大物になると予感していた。









その頃、跡部の元へ1通の手紙が。。。。












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