手紙の表には“跡部景吾様”


そして裏には“琴美”と記されてあった。







☆手紙☆







跡部は“”という文字を見てすぐに中を開け読み始めた。










  跡部景吾様
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  初めまして。既に気付いてるかもしれないけど、私はの母の琴美といいます。
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  今回、実は娘のことでお話が。知ってると思うけど、私達はを幼い頃養子にだしま
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  した。今ではものすごく後悔しているわ。それで、にはつらい思いをさせたと思っ
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  てる。だから、私はに幸せになってほしいの。それには跡部君、君が必要なんです。
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  のことをこれかも支えてくれませんか?
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  を継ぐことがにとってあなたとの別れを意味することを私は先日知りました。
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  まさか跡部家のご子息と付き合っていたとはね。予想外だったわ。
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  それで、私達家は跡部家との合併を希望します。もちろん、と結婚してくれる
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  ことを前提に。もし、と結婚しないのであれば、合併の話は白紙にしてください。
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  はとてもいい子だから、私達を恨まなかった心優しい子だから。。。お願いします。
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                                琴美
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の母からの手紙・・・・

跡部の予想を越えていた。

まさかの母から手紙がくるとは少しも思ってなくて、しかも、その内容がとの結婚をお願いするものだなんて。




そして、ちょうどその時、部屋に内線が入った。



プルルル・・・



俺は机から立ちあがり、電話を取った。




「なんだ?」


『景吾様、お休み中申し訳ありません。奥様とだんな様がお呼びです』


「分かった。すぐに行く」



そう言うと、電話を切った。

今日は滅多に帰らない父も帰ってきている。

恐らく母が呼び寄せたんだろう。

もちろん婚約の話で。

俺は階段を降りて行った。


リビングに入ると父と母が座っていて、こっちを見ていた。

2人のところに歩み寄りながら問いかけた。




「用とは?」


「いいから座れ」




言ったのは父だ。

恐らくこれから母は滅多に口を挟まないだろう。

俺は2人の目の前に座った。




「で、何か?」


「景吾、婚約破棄を申し出たそうだな」


「はい」




俺は今まで父の言う通りにしてきた。

しかし、今回は絶対にそうなるつもりはない。




「しかも、婚約者であるさんの前でも」


「はい。正直に申し上げただけですが」


「おかげで桃井家から婚約破棄の電話がきた」


「それはちょうどよかったではありませんか」




挑発したような態度に父は怒りが増しているのが分かる。




「きさまっ!!これがどういうことか分かっているのか!?桃井家との友好関係が崩れたら跡部家のかなりの損害となるのだぞ!!
 しかも、家についてみろ!跡部家は終わりだ!!」


「あなた方は本当に会社のことしか頭にないのですか?」


「当たり前だ!!」


「その為なら息子も道具のように扱うんですか?」


「・・・」




もちろんそこで「そうだ」というはずがない。

言ったら親失格もいいところだ。




「景吾、お前は将来この会社をつぐんだぞ?!大きい会社のままであってほしいだろう。
 それに、社員の運命も我々は握っているんだぞ」


「そうですね、確かに大きい会社であってほしいとは思いますが、それは二の次でいいです。
 ただ、社員達のことを考えると会社の存続はあるべき姿だと思っています」


「だろう。その為にはお前の言う“”とは結婚できないのだ。分かってくれるか?」


「はい。とは結婚しないことを誓いますよ」


「そうか。さすがは私の息子だな。話がわかる。」




そう。とは結婚せずにいてやるよ。




「おい、すぐに桃井家に連絡しろ」


「ちょっとお待ち下さい。まだ私は桃井家の人間と結婚するとは言ってない」


「どういうことだ?」




さっきまでご機嫌な顔をした父がいっきに疑惑の顔に変わった。

こうも、思ったとおりに顔に変化があるのも面白い。




「父はもっと会社を大きくしたい。そうですよね?」


「ああ」


「それなら、桃井家よりも家にしてはいかがでしょう?」


「「!!!」」




ここでも予想通り驚いてくれる両親。




「景吾、気は確かか?家はご息女おろかご子息さえいないのだぞ。
 跡継ぎの予定だったご子息も幼い頃に亡くなったのを知っているだろう」


「はい。ご子息が亡くなったのは存じています。しかし、跡継ぎは確かにいるはずです」


「確かに跡継ぎはいるだろう。しかし、ライバル会社との縁談なぞ向こうも受け入れるはずがない。
 しかも、こちらから持ち出せばいいネタにされるだけだ。変な考えなど起こすな」


「お話中申し訳ございません」




そう断りを入れてきたのは父の秘書だった。




「なんだ」


「先ほど、家のご当主及び奥様が亡くなられたとの情報が」


「何っ!?2人ともか?」



2人とも亡くなった・・・

今すぐにでもの元へ行って慰めてやりたい。

あいつは絶対人前では泣かない。

トップに立つことを自覚しているから、1人にならないと泣かないだろう。




「はい。なんでも、交通事故に合われ、入院していたそうです」


「ついに家も終わったか・・・」


「そうでもないですよ」




そう言葉をさえぎったのは景吾で父は驚いた顔をしていた。




「どういうことだ?」


家の2人は既に跡継ぎを決めていたようです。もちろん本人も承諾済み」


「ふん。家ではなく、次は何家だろうな。名前が変われば信用も変わることを景吾も覚えておけ」


「それぐらいは存じていますよ。でも、一言よろしいですか?」




跡部は自信満々の顔で父にいつもの微笑みをみせた。

そう。何かたくらんでいるような微笑を。




家は今後も家のままですよ」


「なに?どういうことだ」


にはご息女がいたんですよ。それで、俺はそいつと結婚したい。もちろん受け入れてもらえる自信はありますよ」


「知り合いなのか?」


「はい。あなた方の反対したですよ」


「景吾、お前が言うとはか?」


「元・ですね。今はですが。これならあなた方が気にする血筋のことも問題ないはずだ」


「どういうことなのだ。私にはさっぱり分からん」




それから俺は説明した。

家へ養子になっていたことを。

そして、跡を継ぐことも。

最後に両親にの母から来た手紙を見せた。



両親は考える時間が欲しいと申し出たが、俺はすぐに決めてくれ。と言ったら母も俺の熱意に負けたのか、父を説得しはじめた。

すると、両親から決定の言葉がでた。




「わかった。それでは、跡部家は家との合併として婚約を許可しよう」


「ありがとうございます」




俺はすぐにその場から立ち去った。

そう。の元へ駆けつける為に・・・・





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あれから葉月さんはずっと私の傍にいてくれてる。

悲しいけど泣けない。

何も出来なかった自分が悔しいけど泣けない。

泣くことは弱みを見せることだから。

・・・・大声で泣いてしまいたい・・・・



そう思っていると、葉月さんが私に紙を渡してきた。




「奥様からの伝言でございます。自分が亡くなった時に様に渡してほしいと・・・」




それは手紙だった。

表にはへ。

そして裏にはあなたの母より。と・・・・

その場で手紙を開けた。









  
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  あなたに手紙を書くなんて初めてね。あなたにはきちんと謝りたかった。ごめんなさい。
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  私達のことこと恨んでもかまいません。それ程のことをしたんだからね。
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  じつはね、私聞いちゃった。、跡部家のご子息と付き合ってたの?それも何かは分
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  からないけど、物をもらうほど。忍足君とあなたの親友が来て、色々話しているのが聞
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  こえてね。ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったのよ。聞えたから。
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  跡を継ぐことにも大きな決心がいたとおもう。でも、、私達はあなたを犠牲にした
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  かったわけじゃないの。あなたには幸せになって欲しいから、跡部君とこれからも一緒
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  にいて欲しいって思う。だから、私考えたわ。家と跡部家は合併することを。2つ
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  とも大きな会社だからお互い損はないと思う。ただ、家が跡部家に変わるだけ。
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  もう、意味はわかるでしょ?の結婚式見れなくて残念だわ。それじゃ、幸せにね。
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                            あなたの母 琴美
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そして、便箋の中には入院中ずっと母と父が身につけていた指輪が2つ入っていた。

それを手に取った瞬間外でざわめきがおき始めた。

ざわめきが泣きそうだった私を止めてくれたことにホッとした。

目の前には葉月さんがいたから泣きたくなかった。
















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