がの姉じゃないと言う。
俺は頭が回らなかった・・・
俺はこんな状態のを見たくなくて病室を出た。
これ以上見たくなかった?いや、認めたくなかったのかもしれない。
が記憶喪失ということを・・・・
☆葛藤☆
俺は病室から少し歩いたところにあった談話コーナーの椅子に腰掛けた。
そして病室でのの様子を振り返った。
凛とした態度で俺達と接していたが、目だけは怯えを含んでいるようにかんじた。
と名乗った。
なぜなんだ?苗字を忘れた。もしくはと名乗るなら分かる。
しかし、は確実に名乗った。と・・・
もう俺はどうしたらいいのか分からなくなっていた・・・
両膝に肘を付き、祈る形を取った手に頭を乗せて溜息をついた。
「お疲れ様です」
俺はいきなりの声に驚き、顔を上げた。
そこにはが1人立ってこちらを見ていた。
笑顔で。でもその笑顔には切なげさがあった・・・
「・・・」
「一つ、確認してもいいですか?」
「・・・・ああ」
は承諾した俺の言葉を聞き、椅子に腰掛けた。
そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「跡部さんはという言葉に対して何か知っていますか?」
「いや。しらねえ」
「そうですか。じゃあ姉貴は説明してなかったんですね」
「どういうことだ?」
「姉貴は家の人間じゃなかったんですよ」
俺は衝撃を受けた。
家じゃない?それは今の親やと血が繋がっていないことを示していて・・・
駄目だ!今の俺じゃ冷静でいられない。
「分かりやすく言うと養子・・・ですね」
「そうだったのか」
「姉貴は小学に上がる頃に家に加わりました。昔の姉貴はまるで今の、記憶を失った姉貴のようでした。
全てにおいて敬語を使い、何もかも下手にでていました。明るくなったのは何年かしてから。。。
俺に心を開いてくれたのも。。。そして、その前の家というのが」
「か・・・」
「はい。よほど凄い家だったみたいです。姉貴の小さい頃の口癖は『ごめんなさい』でした。
何も悪くないのに謝ることが多かったんです」
「・・・・」
何も言えなかった。
衝撃とかよりも、ああそうなのか。と思う気持ちが先立っていた。
「姉貴は不安定な状態になっています。だから俺、家に連れて帰ります」
「そうか、分かった」
「それでは・・・あっ、姉貴の世話の方はありがとうございました。御礼は後ほどさせていただきます」
「いや、礼はいい」
は俺にお辞儀をして病室の方へ帰っていった。
一体どうすればの記憶が戻る!?
神は信じることは今まで1度もなかったがこの時ばかりは神に祈った。
『どうかの記憶がもどりますように・・・』と・・・
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
が目覚めて5日。
が退院したのが目覚めた次の日。
それ以来俺は学校が終わって必ず青学へ寄る。
記憶がなくなってからは家に住むことなっていた。
そして今日も寄り、を校門で待っていた。
「跡部君!!」
は大人しく歩いて来ていた。
前なら走って来ていただろう。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや。そんなに待って無い」
「そうですか・・すみません」
また謝った。
はあれ以来よく謝る。
の言っていた通りだ。
俺達は黙ったまま隣を歩いている。
初日は、両親に見られたら怒られるとか言って一緒に帰ることさえ断られた。
しかし、今では隣を歩くことは許されている。
「あの・・・」
「なんだ?」
からの声かけに俺は嬉しかったが、表には出さずにいた。
「跡部さんとは恋人なんですよね?」
「ああ。・・・・いや、婚約者だな」
「!!!」
驚いて歩くのをやめた。
俺も歩くのをやめ、後ろで止まったに振り返った。
「どうした?」
「あの・・・それは親が決めたものですか?」
「いや。俺達で約束したものだ」
「ウソ・・・」
信じられないものを見たように驚いているの目からは涙が浮かんでいた。
「なんで泣いてるんだ?」
「嬉しくて・・・自分にとってそういう方がいるということは親が私のことを許してくれた証拠だから・・・
それに、身近な人が現れてくれたことが嬉しい・・・」
こいつはこんなにも親を気にして生きてきたのか?
前のはこんなんじゃなかった・・・
その時、俺は気付いた。
俺は常に前のと今のを比べていることを。
いけないこととは分かっていてもどうしようもない。
前のに戻って欲しいと今でも願っているから・・・
あの笑顔が見たいから・・・あの声で『景吾』と名前を呼んで欲しいから・・・
家に着くなりは「ありがとうございました」と言って家に入って行った。
今ではも家に住んでいる。
休みをずっととっているらしい・・・
の場合は大丈夫なんだと・・・
その為、玄関を開けた時にの姿が目に入った。
・・・お前はずっとそのままなのかよ・・・
戻ってきてくれ・・・何でもしてやるから・・・頼む・・・・
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お帰り」
「くん、今帰りました。わざわざ出向かわなくていいのに・・・」
「姉貴、いい加減敬語と君付けやめろよな」
「ごめんなさい・・・」
「やっ、別に謝って欲しいわけじゃ・・・」
「ごめんなさい・・・」
駄目だ。これはずっと続いてしまう・・・
姉貴は敬語をやめない。
小さい頃は結構早くに敬語を使わなくなったのに・・・
ちょうど姉貴が2階に上がっていた時に家のチャイムが鳴った。
ピンポーン!
「はーい」
俺は返事をしながら玄関を開けた。
そこには六角高校の佐伯虎次郎が。
「久しぶりだね、」
「サエ兄じゃん!?どうしたの?」
「今日幼馴染に会いに行ったついでに寄ってみただけ。も元気?」
「ああ・・・まぁまぁかな?で、幼馴染って?」
「不二周助。知ってるでしょ?」
「えー!!不二さん!?」
「そうだよ」
意外だ。。。不二さんとサエ兄に繋がりがあったとは・・・
サエ兄とは昔、ストリートテニス場で会ってよく試合をした人だ。
俺が必ず負けていたけど。
俺の目標でもある。
「で、は?」
「今2階にいるよ」
「顔見たいんだけどいいかな?」
「・・・今は・・・」
「どうしたの?」
「イヤ。ちょっと・・・」
どうしようか迷っていた時、階段を降りる足音が。
そして姉貴の声が聞こえた。
「くん?お客様を家に上げたらどうかしら」
姉貴はサエ兄を見て頭を下げた。
「こんにちは」
「?」
「えっ!?私のことご存知なんですか?」
「冗談はよそうよ。」
「あっ・・・すみません」
サエ兄は姉貴が冗談じゃないと分かった瞬間、顔を顰めていた。
「事情を説明するから上がって」
「そうだね、そうさせてもらうよ」
リビングに案内してソファに座ってもらった。
姉貴は飲み物を準備して、それぞれの前に置いてから自分も座った。
「何から聞けばいいのかな?」
「私、記憶喪失らしいんです」
「記憶喪失!?どうして」
「それが・・・なんでも事故らしくて・・・」
姉貴は全てを語った。
自分の苗字がということも・・・
サエ兄は昔のことを知っていた為、すぐに理解できていた。
「あの、名前教えていただけません?」
「佐伯虎次郎だよ」
「佐伯虎次郎さん・・・」
「違う。は昔、俺のことをサエって呼んでいたよ」
「サ・・エ・・ですか・・・」
「うん、そう。だからサエって呼んで」
「あ、はい・・・」
サエ兄は強いと思う。
姉貴に対してこういう態度でいられることが。
俺なんか冷静でいることはできなかった・・・
「、そんなしかめっ面してたらが不安がるだろう?」
「あっ・・・ごめん。つい・・・」
姉貴が飲み物のおかわりをしに行っている間にサエ兄から指摘を受けた。
俺は両頬を叩き、気合を入れた。
そして、自分も飲み物のおかわりに立ちあがり姉貴とすれ違いで台所へ足を向けた。
「で、は不安なこととかないの?」
「今のところは特には・・・みんな優しくしてくれるし、もちろんサエも。それに婚約者もいるし・・・」
「婚約者?誰なの?」
「氷帝学園の跡部さん」
「跡部君が?」
「はい」
俺は台所から戻ってきた。
サエ兄は立ちあがり「もう帰るね」と言って玄関へ足を向けた。
俺はサエ兄の後を追った。姉貴も追おうとしたが、サエ兄が「はいいよ、男同士の話があるしね」と笑って止めた。
「今日はごめんな。何もできなくて・・・」
「このことは両親は知っているの?」
「ああ男同士の話ってそのこと。連絡は入れた。姉貴が今はまだ混乱しているから帰ってきたら迷惑かけそうで怖い・・・
と、両親が帰ってくることを拒否してしまって帰ってきてないんだよ」
「そう。ところでは婚約してるの?」
「婚約?そんなの聞いたことないぜ」
「そう・・・あっ、今日はありがと。また近いうち来るよ。も心配だし」
「ああ。じゃあまたなー」
サエ兄はどうして婚約者なんか言い出したんだろう?
まさか俺の一言でサエ兄の行動を決めていたとは考えもしなかった・・・
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